私が監禁されてから7日目の朝のことであった。私が目を覚ますとマリアと名乗った悪魔が私をじっと見ていた。
「やっぱり可愛そう……」
マリアは私の目を見てポツリとつぶやいた。
「こんなことしていいのかな」
マリアはそう言い残し、いつも通り私専用の食べ物を置いて出て行った。最近の私にはとても不思議な感情が芽生えていた。監禁されてからというものの何もされていないのだ。食事もしっかりとくれるし、この食事が意外と美味い。さらに毎日体を綺麗に洗ってくれる。純粋に生きて行く上では何一つ不自由しないのだ。マリアはおそらく私の監視役なのであろうが、優しく世話をしてくれる。私に危害をあたえるつもりは微塵も感じないのだ。今では恐怖すら感じなくなってしまった。マリアが私に対して明らかな同情の感情を抱いているということもわかった。一体、悪魔達は何を考えているのだ?私をまるまる太らせてから食うつもりなのか?それともただの所有欲なのだろうか。
この答えはマリアが教えてくれた。いつも通りマリアが私の体を隅々まで洗っている最中、マリアが悲しそうに話してくれた。
「寂しかったの。あの子が死んじゃってから。それであなたを代わりと言ったら変だけど、お願いして買って貰ったの。でもやっぱり可愛そう。ごめんね、こんな所に閉じ込めちゃって」
やはり私は悪魔の所有欲により拉致されているのだ。「あの子」とはおそらく私のような悪魔によって拉致された者であろう。私の中で薄れていた憎悪が湧き上がってきた。だがマリアに同情してしまっているもう一方の私がそれを抑えこんだ。私はわざと気持ちよさそうな顔をして、優しく洗ってくれているマリアの悲しそうな巨大な顔に答えてあげた。この日はなかなか寝付けなかった。
次の日の朝、私が目を開けると昨日と同じ顔をしたマリアが私を眺めていた。私は必死に寝たふりをしてしまった。マリアに同情してしまっている自分と、そんな自分に失望する自分が瞬時に現れ、マリアの前で普段通りに振舞え無いと思ったからである。マリアは私の狸寝入りに気づいたらしく、私に喋りかけてきた。
「…そんなに私が嫌い?それはそうだよね。私がいくら親切にしたって、いくら謝ったって許すはずないよね……」
マリアは泣いていた。何か決意したかのような声であった。
「本当に寂しかっただけなの…………ありがとう」
ガタッ!急に牢屋が大きく揺れた。私は驚いて飛び起きた。
「……ごめんね、ビックリさせて。許してもらえるとは思わないけど、せめてもの償いよ。本当にありがとう……」
突然牢屋の中に強い光がさし込んできた。私は思わず目をつぶった。
「さようなら……」
目を開けると、目の前には大空が広がっていた。……外だ。牢屋ごと外にいる。私の目に涙が溜まり始めた。マリアは牢屋の扉を軽々開け、ニッコリ笑った。
「ほら、早く行って……!」
私はマリアの顔をじっと見て、涙で覆われた顔でこう告げた。
「アリガトウ」
私は脱獄した。
脱獄の時の涙が強い光のせいなのか、脱獄の喜びなのか、はたまたマリアへの感謝の気持ちなのか……今となってはわからない。しかし確実にわかったことは一つある。私たちが悪魔に対して抱いていたイメージを、改めないといけないということだ。つまり悪魔の中には悪魔と呼ぶにはふさわしくない者もいるということだ。それはマリアだけに着目したわけではない。脱獄後すぐに私を見つけた2人の悪魔がいたのだが、2人は私に危害は与えなかった。
「あれ何―?欲しい!」
背の小さい方の悪魔が私を指さして言ったのだが、背の高い方の悪魔がそれを聞き、私を見ながらこう言ったのだ。
「ダメダメ。お前ちゃんと世話できるのか?ああいうインコは自然界で生きるのが一番幸せなのだぞ」
ちゃんと理解している悪魔もいるのだ。私は羽を広げ先を急いだ。
完
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