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それぞれの狭間

 「……お客さん……お客さん…………」
どこからか声がする。
お客さん……?俺のことか?
「終点、過ぎましたよ」
へ……!?
私は飛び起きた。
どうやら電車で寝過ごしてしまったようだ。
またか……と思い、目の前の駅員にすいません、と軽く頭を下げた。
そして小走りですぐにドアに向かおうと足を出したが、
「お客さん、何処に行くんです?終点は過ぎましたよ」
は……?何言ってんだこいつ、と駅員を無視してドアに顔を向けると、外の景色は動いていた。
私はカッとなり、
「おい、まだ動いてんじゃねえか。終点じゃねえじゃねえか」
駅員は笑みを少し浮かべて、
「お客さん、終点は過ぎましたよ」
と再び言い残し、くるりと背中を向けて歩き出した。
「……おい!」
私は駅員の肩を掴もうと手を伸ばした。
しかしその前に私の肩を誰かが触った。
「……わかってんだろ。あんたも。ここがどういう場所か……」

話しかけてきたのは、立派な髭を蓄えた老人。
「静かにしてろや。とりあえず座るとしようか」
私はこの瞬間に理解した。……そうか。
「……すいませんでした」
私は去って行く駅員と周りの乗客にお辞儀をして席に着いた。
そうか、この場所は……。
「あんた……初めてか?」
老人がゆっくりとした口調で喋りかけてきた。
「いえ、何度か来たことがある気がします」
「やはりな。……その落ち着き様じゃ次の駅はすぐかな」
「だといいですが……」
車内の窓からは暗闇しか見えず、まるで終わりの無いトンネルを走っているようであった。
暗闇に映し出された私の顔は酷くこけて、暗闇と同化しつつある。

「あんた、死んだ後何を悔いた?」
私の肩の力が自然に抜けた。
「死のうとした自分を止められなっかたことです。私は……自殺したんです。仕事が行き詰まり、生活も限界に来て、家族のためだと言って自分に保険をかけて死んだんです」
「家族のため……別に悔いること無いじゃないか」
「いえ、わかってたんですよ。いくら家族に多額のお金が残ろうと、お金はいつか尽きると。私が一生を賭けて稼ぐはずであったお金を、将来妻が稼ぐことになると……。結局は逃避したんですよ。死ぬ気が本当にあったのだから、死に物狂いで他の解決策を探せたはずなのに……」
「確かにな……。本当に死んじまえたんだからな。クックック」
老人は肩を小さく震わせて笑った。
ドアの上の電光掲示板が点滅し、『次の駅は まもなく 』と表示された。
車内の窓に映る私の顔がハッキリと見え出した。
「私はそろそろみたいです」
「だろうな……」
老人は寂しそうに下を向いた。
老人の姿は窓にはほとんど映っていなかった。

「あなたは何故ここにいるのですか?」
「……ここにいたいからさ。生きている時に大量に人を殺してな……。上からの命令に従っただけなんだが、何百年ここで座っていても自分を許せないのだよ。いや……もう許しているのかもな。ただ自らここに居たいと思っているのかもしれないな」
「そうでしたか……」
老人はドアの上の電光掲示板を指差し、さらに続けた。
「わしには次の駅が表示されていない。あんたには何か表示が出ているだろうが、私には次の駅の後は空白でな」
その時、電光掲示板がまた点滅した。『まもなくこちらのドアが開きます』
気がつくと、いつのまにか周りの乗客の数が減っていた。
「さあ、行け。生まれ変わったら……次はわしと二度と会うことがないようにするんだぞ」
老人はそう言い残して、目を閉じた。
「ええ。でもまた別の場所で会える気がしますよ。ありがとうございました」
私は開いたドアに歩き出し、光の中へと吸い込まれた。


   完 

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テーマ: ショートショート -  ジャンル: 小説・文学
by コジン  at 02:23 |  ショートショート |  comment (0)  |  trackback (0)  |  page top ↑
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