私は監禁されている。監禁されている牢屋は四方を鉄格子が囲みとても狭い。扉には鍵は無く外につっかえ棒がしてあるだけだ。単純な作りだが、ここから自力で脱獄するのは不可能であろう。まず鍵が無い扉というのは厄介で、鍵をどうにかして盗み取っても意味が無い。もちろん盗む鍵が無いのだから当たり前だ。更に、つっかえ棒には鉄格子の隙間からなんとか届くのだが、私の力ではつっかえ棒をはずすことはできない。言うまでもないが力で扉ごと壊すこともできない。「できない」といったのは、私は悪魔に監禁されているからだ。
私は何も悪いことはしていない。本当だ。愛する妻もいるし、幼い息子もいる。確かに家庭を持つ以前はフラフラと思うがままに生きてきた、自分以外には何の興味もなく自己中に生きてきた。しかし他人に迷惑をかけたことは一度も無い、監禁されるような恨みを持たれたことも全く無いはずだ。もちろん重要な情報を持っているわけでもない。つまり、悪魔の一方的な犯罪行為の対象にされたと考えられるのだ。
私が拉致されたのは、異常気象としか言えない暑すぎる夏であった。当時の私は結婚して子を産み、今までの堕落した人生と決別した新しい人生を歩んでいた。暑すぎる夏がやってきたのは、息子が産まれて間もない頃のことだった。暑さで死んだ者も数多くいた。史上初とも言える気温の急激な上昇であったのだ。そのうちに北へ移住する者が次々と現れ始めた。私は移住するまでも無いと思っていたが、来年も再来年もこの暑さが続くという噂を聞き、私も家族を連れ一時的に北へ移住しようと決めた。
北への移住は、数十人の団体で一緒に行くというシステムが確立されていた。このシステムには移住先での住居の確保、同郷的結合の自然的な発生、悪魔による狩りの予防という利点がある。私達家族もこのシステムを利用した。出発当日、指定された集合場所に行くと、リーダーらしき男からシステムの説明を一通りされた。最後に男は悪魔に関する説明を始めた。
「悪魔。私達が最も恐れる存在であることは、皆さんよくご存知でしょう。悪魔の狩りにより連れ去られた者も、数は少ないですが毎年出ています。悪魔達の目的が何なのかはわかっていませんが、悪魔が私達に恐怖を与えているのは確かであります。そして、皆さん承知だと思いますが……北への移住には悪魔のなわばりを通りすぎるという、最も危険な時間があります。しかし!事前に通達した通り、私が示すルートを一緒に通っていたただければ危険はありません。そのルートは悪魔には知られていません。ですから、移住先に着くまでは自分勝手な行動は絶対に禁止です」
男の迫力が急に強まり、私は悪魔の恐ろしさを再確認した。悪魔については何もわかっていないのと同じで、謎の恐怖としか言いようが無い。北への移住を拒否し暑さと闘う者の中には、悪魔に実際出くわしたことがある者もいるであろう。しかし、私は悪魔を見たこともないのである。悪魔にさらわれるのは自然災害による事故と同じで、運の問題だと考えていた。私のこの平和ボケした考えが後に最悪の事態を招いたのだ。